HOME/三味線のアルバム VOL.11-20

 

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(11)試奏記録5時間17分の末 (太棹紅木)

試奏には集中力が必要ですので、想像しているより疲れます。

 

多くの方は試奏開始から1〜3時間で決まりますが、

この三味線を選択した方は5時間17分です。

 

最初の2時間は「どれを弾いても差がわからない状態」でした。

そこからだんだんと違いがわかるようになってきました。

 

人によりますが、頭が働かなくなるころ「自分に合うこと」がわかり始めます。

 

この方は最終的には

「低音から高音までバランスよく響くこと」「自分の体格に合っていること」

「弾いていて心地が良いこと」を重視して決定しました。

 

5時間17分後、選んだ三味線は「最初に良いと感じた三味線」です。

多くの場合、最初の直感は正しいものです。

この三味線の音色

(12)「そう!これ!この音色!」(太棹紅木)

 

日本の古い民謡をこよなく愛する男性の方が出会った三味線です。

 

この方は近所の三味線教室で三味線を習い始めましたが、

「どうもしっくりこない」とお悩みでした。

一番の原因は「三味線の音色が心地よくない、うるさい、痛い」ことでした。

 

そんな中、当店を知っていただき、店舗に遊びに来てくれました。

三味線を色々試奏していると、ある音色の三味線に出会いました。

「そう!これ!この音色!」と興奮して喜んでいる姿が今も忘れられません。

 

「伝統的な三味線の音色や演奏」が大好きなことが明確になった瞬間です。

これは試奏で体験しないとわからないことです。

 

その後「今の教室を辞める」と仰ったときは「大丈夫かな」と心配しましたが、

今では「伝的な三味線の演奏」を教えてくれる教室を無事見つけ、

「自分の好きな演奏」を「自分の好きな三味線」で楽しそうに学んでいらっしゃいます。

 

(13)繊細な人 (太棹紅木)

感受性は人により異なります。

 

感受性が強く、鋭い人ほど、雑に出された音に敏感です。

雑にただ大きい音や派手な音を出す楽器には耳だけではなく、

全身を塞ぎたくなってしまいます。

 

彼女は今まで接した中でも最も感受性が鋭い人の一人です。

 

そんな彼女は友人の三味線選びに付き添いで遊びに来てくれた時に、

ある三味線と出会ってしまいました。

出会った時、彼女が全身で共鳴している姿と喜んでいる表情を忘れられません。

 

その三味線は製作後50年以上経過しているヴィンテージ品です。

前に演奏していた奏者が長年をかけ丹念に繊細な仕上げに成熟させました。

太棹三味線には珍しい繊細な音色を奏でます。

 

彼女は様々なことが一瞬の体験でわかってしまいました。

 

彼女は、今、繊細な演奏を教えてくれる教室に入り直し、

自分の感受性を活かすことができる演奏の道を楽しみ始めました。

 

この三味線の音色

 

(14)80歳からの挑戦 (中棹紫檀)

 

「ずっと三味線を習ってみたかった」

 それはあなただけではありません。

 なかなか、きっかけがないと物事は始まりにくいかもしれません。

 

 人によっては、それが80年越しの実現であったりもします。

 

 私は80歳を過ぎてから三味線を始める方に何人もお会いしています。

 

 私の周りはですが、皆さん、上達して、曲が弾けるようになっていきます。

 そんな皆さんに共通していることは「自分を知っている」ことです。

 「自分を知っている」ので、自分に合ったやり方を熟知されています。

 

 50代、60代で習い事を始めることに尻込みをしている人がいますが、

 まだまだあなたは若手です。日本の平均年齢を少し超えたくらいの年齢です。

 

 伝統芸能はスポーツのような音楽ではありません。20代がピークではないのです。

 70歳からが花が開く段階です。その素晴らしさをぜひ味わっていただきたいものです。

 

この三味線の音色

 

 

(15)直感の大切さ (中棹紅木)

当店で試奏して三味線を選ぶ人の約半数が、

「最初に弾いた三味線」を最終的に選択します。

 

通常、当店にお越しいただくと、私と雑談をしながら体を落ち着けていただき、

ご要望をお伺いして「そろそろ試奏してみますか」とご提案しています。

 

その時に私は店舗を眺め「最初に弾いてもらうのは、なんとなくこれかな」と

直感でお渡しします。

 

その後、人によりますが色々な三味線を1〜2時間ほど試奏されます。

 

試奏のプロセスは一概にはいえません。非常に楽しく創造的な時間です。

 

半数の人は、苦笑いしながら、最初に弾いた三味線を選択します。

 

わたしと奏者の不思議で面白い共同作業です。

 

この三味線の音色

 

 

 

(16)一歩、踏み出す瞬間 (細棹紅木)

ある女性の方は、西洋楽器の音楽経験があるため、

三味線を独学で学び、地域の落語の出囃子の演奏をされていました。

 

当店を知っていただいてから一年ほどした頃、

彼女が店舗を訪ねてくれました。

「独学には限界があること」「自分の三味線が欲しい」ことを

相談いただきました。

おそらくそのことで数年間モヤモヤしていたのでしょう。

 

まずは「自分が好きな音」を知っていただこうと考え、

様々な三味線を試奏いただきました。

 

じっくりと色々な三味線を試奏をしていたところ、

ある三味線の音を出した瞬間、この三味線が明らかに「鳴った(共鳴した)」のです。

お互いに言葉にはしていませんが、瞬間的に私も彼女もそれがわかりました。

「自分に合った三味線」に出会った瞬間です。

 

その後、彼女は、自分に合った教室を見つけ、メキメキと能力を伸ばしていきました。

 

三味線の能力が伸びただけではありません。

自分らしい音色で自分らしい演奏を身につけたことが自信となり、

三味線を通じて活動や人間関係を広げていっています。

 

「一歩、踏み出す瞬間」それを三味線を通じて支えさせていただけることが本当に嬉しいことです。

 

この三味線の音色

 

(17)名古屋の名器 (細棹紅木)

「三味線を修復して欲しい」 ある方が当店にたずねて来ました。

 

それは桐箱に大切に保管されていた、「名古屋の名器」と呼ぶのがふさわしい逸品。

 

「贈与された」とのことでしたが、希少な三味線の価値に依頼者は驚いていました。

 

修復は本当に楽しいひとときです。私は三味線のことは実物から学んでいます。

実物を通じて楽器を直感的に体験ができるからです。

 

これをお読みの奏者の皆様が、演奏の追求や表現を通じて得ている洞察を、

私はモノを通じて体得させていただいています。

 

歩む道は一見異なりますが、行き着く先はおそらく同じなのでしょう。

 

この三味線の音色

 

 

(18)独自の音色 (カスタマイズ中棹短棹)

基本的には三味線の設計は完成されています。

400年の歴史があるということは、それなりの深い理由があります。

 

安易に変えると「浅はか」になってしまう恐れがあります。

このため、ここでご紹介するのは安易な三味線の音色の変更ではありません。

 

説の一つでは、弦楽器の源流は中東であると考えられています。

私は様々なアジアの弦楽器を調査していますが、中東に三味線によく似た音色の楽器を発見しています。

 

それは「サワリ」があること「皮」があること「三弦」の楽器であることが共通項です。

 

私は皮を含めた様々な音色の要素を変更することで、

その中東の楽器の音色に近い楽器を三味線で実現できています。

 

時には少しこのような取り組みもしながら、

「音色とは」なんなのか、そんな問いを三味線に投げかけながら自己研鑽に取り組んでいます。

 

この三味線の音色

 

 

(19)当店だけの隠れ人気

「正寸 少し太めの細棹紅木 東サワリ有」

「1寸詰の短棹 細棹・中棹 東サワリ有」

 

この2点は人気があるため、なかなか店舗でお出しすることができません。

ようやく質の良いモノが仕入れることができ、店舗に置くと、

なぜか、気にいる人が現れ、すぐになくなってしまいます。

 

この2点は世間的には「無名な仕様」の三味線です。

この仕様の三味線を持っている人はごく少数でしょう。

これらの三味線は多数を試奏するという機会がないと知ることはできません。

 

なぜ人気なのか、

それは「音色の繊細さ」と「余韻が響きやすい」ためです。

 

みんなと同じではなく、自分に合うもの。

三味線が好きという変わり者のあなたにはぜひ自分に合う三味線で

稽古に励んでいただきたいものです。

 

この三味線の音色

 

 

(20)見極める玄人奏者 (太棹紅木)

「年に一丁出るか出ないかの面白い三味線が仕立てられた」

そして正直「この三味線は売りたくないな」感じました。

インターネット掲載も店舗の展示も控え、しばらくともに過ごそう、そう考えていました。

 

翌週、遠方から上級者が訪ねてきました。

三味線歴の長い方です。独特の雰囲気がある、武士のような方です。

 

彼は、様々な三味線の試奏を始めると、

音色のコメント、木材の年代、木材の質、ヴィンテージの良さなど

的確に楽器の評価をしていきました。

 

有名な奏者や有名な先生でもこんなに的確に

三味線のことがわかる人に出会ったことがありません。

 

もしかしてこの三味線の良さもわかるかな、と感じたので試奏していただいたところ、

彼は「出会ってしまいました」。

 

私はこの三味線は彼に渡るべきだ。そう考えました。

 

私の内心は持つべき人に渡って嬉しい反面、大切な娘を嫁を出す父のような気持ちになり、

喪失感もあり、複雑な心境で数日を過ごしたのを覚えています。

 

おそらく彼なら独自の道の良きパートナーとして大いに活躍していることでしょう。

 

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